汚染水のトラブルが、どんどん酷くなっているにもかかわらず、人々は馴れてしまってメディアの報道に関心を示さなくっている。
しかし、作業員が3400万Bq/lのβ線を含んだ汚染水を被るということが起きているのが現実なのだ。新聞によると、作業員は除染して無事とのこと。
本当だろうか。本当に大丈夫だと言えるのだろうか。
先日、元原発作業員の方に話を伺ったことによると、イチエフの作業環境は劣悪極まりない状況であると。ついこの間まで中で働いていた人の言葉からは、たいへん切迫した状況が伺われた。最近は外国人の作業員の割合が増えたとも……。
それで十分な意思疎通ができるのだろうか。メディアでは「これはケアレスミステイク」「現場の士気が落ちている」と書いてあるが、言葉も通じない環境で士気もへったくれもない。何がミスなのか分からないではないか。
チェルノブイリでは事故処理に当たったリクビナートル達が中心と成って、後にチェルノブイリ法ができた。そうして今でもリクビナートルは尊敬を集めている。
ここまできたら、福島原発の現場を、根底から変えてゆかなくては立ち行かないのではないだろうか。
ヒト・モノ・カネ・チエを福島原発に集結しなければ、と、本当に焦る。部外者のわたしなどがこんなに焦ってもどうにもならないのだが……。
汚染水の問題を考えるとき、決まってわたしが麻酔医だった頃の若い自分を思い出す。その記憶が蘇ってくると、今でもなかなか眠れないほどなのだが……。
その手術室は修羅場の限りを尽くした空間だった。緊急の開腹術でのこと、手術台の上の患者 さんの腹部から出血が止まらなかった。輸血を10パック入れたところで、真夜中の大学病院と付属の看護師寮に一斉放送をして献血を呼びかけた。さらに20パックの血液が集まった。生血の輸血を入れても入れても全く出血は止まらなかった。血圧は下がり続けた。
真冬の午前5時、大先輩の外科の執刀医に、わたしは手術の終わりを告げた。その朝から、わたしは氷のトンネルに入ってしまい、しばらく出てこられなくなった。
きっと、あんな修羅場がそこ此処で起こっているに違いない福島原発。
3400Bq/lの汚染水を被ってしまう修羅場から、作業員の命を守ってゆかねば……。