「まけないぞうというもの」

2011年9月27日 火曜日

明日は、いよいよ増島智子さんをお迎えして講演会が開かれます。
被災地のこれまで、これからを、まけないぞうを通してお話ししていただくことになっています。

わたしが増島さんを、遠野にお尋ねしたのが7月の半ばでした。
その時の模様は、我謝京子さんがロイターニュースにまとめて下さったので、ご覧頂いたことがあるかもしれません。
皆さまにたいへんご好評を頂いたニュースでした。

そうして、ここのところ、まけないぞうについて、いろいろな方々にお話しする機会が増えました。
また、makenaizoneの仲間たちが次々に広げてくださって、中には外国へも紹介して下さるメンバーも増えてきました。
それでぜひ、増島さんの生の声をメンバーのみなさまに聴いて頂きたくて講演会を企画しました。

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ところで、まけないぞうとは、被災された方・作り手さんへの直接の支援ができる……わたしたちは、とかくこの部分に目が行きがちです。かくいうわたし自身も初めは全くそう理解していました。
確かに、被災された方々には仕事を無くされた方も多く、まけないぞう作りは経済的な支援になっているはずです。それは揺るぎのないまけないぞうの根幹でもあると思います。
けれども、わたしにとって「まけないぞうというもの」は、あの7月の東北の旅の中で少しづつ違う意味になってゆきました。
あの旅の中で増島さんがわたしに伝えてくれた事こそが、本当はとても大切なことではないのだろうかと、わたしは密かに思っています。
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増島さんは、遠野から毎日、沿岸部の被災地にクルマを走らせていました。
道路の工事でクルマが渋滞すると、運転席から携帯電話で「すみません。渋滞して予定より少し遅れます、本当にごめんなさい」。
少し大きな余震が起これば携帯電話で「今の地震、大丈夫でしたか?あー、無事でよかった。もう、ごはん食べましたか?これから伺います、後ほどね」
被災された方々と、携帯電話でこんな会話をしながらクルマを走らせてゆきます。それはまるで、家族のように自然な言葉でした。

避難所に着けば、他のボランティアと話をしてそれとなく情報を収集していきます。仮設住宅への転入は何時ごろになるのだろう、仮設住宅では何か問題は起きていないか、などなど。
陸前高田の仮設住宅に着けば、持って来たお土産の果物やタオルを配って歩いて、その仮設の中でのリーダー役の方に、やはりそれとなく、けれども綿密に周囲の状況を取材する……。このところの集会やお茶会にみんな出てきているか、食欲や会話の内容はどうだろう、などなど。
圧巻だったのは、まけないぞうを未だ作る状態にない、まだまだ精神的に針仕事に集中することができないような被災者の方々にも、まんべんなく声をかけて歩いておられたことです。
つまり、彼女は被災された方々の、心のドクターでありました。本職の医者であるわたしが舌を巻くような、そんな素晴らしいドクターでした。

大きな災害に遭った人々は、当たり前のことですが、誰でも同じように立ち直ってゆくわけでありません。一人一人違った立場、違った環境で被災されるのですから、体や心の状態は、100人いれば100通りの被災状況にあります。
増島さんはたった一人で、100通りの復興への道のりを引き受けていたのでした。こんな事は、かなりベテランの医者でもなかなかできることではありません。本当に難しいことです。けれども彼女は、一見、何気なくそれをこなしていました。

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わたしは被災された方々に対する、増島さんのこうした接し方を目の当たりにして、「まけないぞうとは」被災された方々の心が立ち直って、また歩き始めることをお手伝いする災害ボランティアとの、究極のコミニュケーションツールなのではないかと、そう思ったのでした。
増島智子さんは、まけないぞうを被災された方々に教えて作って頂いて、集めるだけのことをしているのでは決してありません。
むしろ、彼女のボランティアの結果として、副産物的に完成したものがまけないぞうなのではないだろうか、と……。

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さて、増島さんのような災害ボランティアこそが、今、被災地にはとても必要です。災害直後から時間が経てば経つ程、被災された方々の心や生活の差がどんどん開いてきているはずです。開けば開く程、きっといろいろなストレスを抱える方々が出てきておられるはずです。

あの7月の旅でわたしは、被災された方々の経済支援をする、というそれまでの考えを切り替えて、増島さんのような災害ボランティアが一人でも多く、安心して活動ができるようにすることが何よりの支援ではないだろうか、と、そう思うようになっていました。
ですから、そのためにも、まけないぞうを出来るだけ沢山の方々にご紹介することがわたしたちの支援の根幹なのです。けれども、その陰にはしっかりとした災害ボランティアの存在があってこその、まけないぞう支援なのだということを、一人でも多くのみなさまと共有したく思った次第です。

さあ、増島さんの講演会まで、日付が変わってあと15時間を切りました。
わたしの考えている「まけないぞうというもの」が、きっと増島さんの人となりを通して、みなさまの心にも響いてくれるとここに確信して、今夜はベッドに入ろうと思います。おやすみなさい。


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